東京音楽#6 「かげろう」曽我部恵一

先月、下北沢にいってmona recordsで買った『Sketch of Simokitazawa』の1曲目*1。ちょうど今日は雨です。下北沢は、雨が合う。私の下北沢のイメージは灰色だから。だから雨が合う、気がする。

雨が今日は降って 下北沢を濡らす
雨に濡れた公園で 子どもたちが遊ぶよ
きみとぼくはかげろう
うすい羽根をひろげに行く

初めて下北沢に行ったのは、もう何年前になるのだろう。東京に住むずっと前、他の寒い街の大学生だった私は、当時付き合っていた恋人と一緒に下北沢を歩いた。彼の出身は東京で、まあよくある彼が生まれたり育ったりしたところと見てみたいっていう旅行で。彼は中学生で引っ越しており、それまでは京王井の頭線沿い、それ以降は小田急線沿いの、でもどっちも世田谷区ってところで生まれたり、育ったりしていたので下北沢はよく行くだか、よく知っていると言ってたと思う。私は名前だけ知っていた、そして若者のオシャレな街だという下北沢に行ってみたかったのかなんだったのか、とりあえず二人で歩いた。でも、あまり印象は残っていない。なにか似たような小さいビルが並ぶ、ごちゃごちゃしたよくわからない街だと思ったのだろうか。
それ以降、学生時代にも何度か、そして上京してからも何度か下北沢へ行った。それでもわたしの中の下北沢は「よくわからない街」だった。まず、駅の中がわかりにくくて迷う。そしてどっちが南口で、北口なのかがわからない(さすがに最近はわかるようになりましたが…)。一度西口から出てみたらやっぱりわからなくなってしまって迷い子になってしまった…。そして古着屋さんもカフェも雑貨屋さんも飲み屋さんもすごい楽しそうなんだけど、どこに入っていいのかわからず結局いつもスタバとかその辺でコーヒーを飲んで帰る…という感じだった。だから下北沢の「いいなあ」って感じはなんとなくはわかるけど、というか、きっとこの街に住み、または通う人にとってはかけがえのない場なんだろうとは思うけど、でも私の気持ちの中ではそれはとても遠いところのような気がしてた。
でも、このあいだ行ったとき、初めて「おもしろい街だなあ。いい街だなあ」と思った。それはちょっとしたかわいいものとの出会いだったり、おいしいお茶だったり、お酒だったり、そして素晴らしいライブだったり、そういうものをいっぺんに体験したからなんだろうけど。いままでずっと上辺だけ参加していた下北沢のモノたちに、自分が初めて溶け込んで、一緒に楽しめたからなんだろう、と思う。…それから、この曲を聴いた。曽我部さんの声は、やさしい。ゆったりしたリズムと、雨の日の音…濡れた路面を走る車の音。そしてカラスの声。
なくならないものはないけれど、そして大切な場所を失っていくのは常のことなんだけど、それでもこんなに愛されている場所が、もうちょっと先、もっともうちょっと先も、そこにあるといいなあ、と思った。


*1:HPでの販売は終了してる…ってことは下北で買うしかないのかな。